舞いあがれ(2022)|第7週/第31-35回/をレビュー

出典: https://www.nhk.or.jp/maiagare/

 第7週で脚本家桑原亮子さん担当パートが終了。桑原さん版舞いあがれの集大成の週と言ったら言い過ぎでしょうか。登場人物の心の機微を丁寧に丁寧に紡いだ桑原さんの脚本は、ゆっくり心が暖かくなり、じわーっと気持ちが高揚して自然と涙が溢れる、そんな物語が特徴的でした。今週は舞ちゃんと舞ちゃんの周りにいる親友2人(貴司くん、久留美ちゃん)と家族(お父ちゃん,お母ちゃん、ばんば)それぞれの心が、おばあちゃんが住む五島で大きな区切りを迎えました。

親としての矛盾と子供の成長

この記事で注目したのは2つのポイントです。

  • 舞ちゃんの新しい夢と、お父ちゃんお母ちゃん
  • お母ちゃんめぐみさん(永作博美)とばんば祥子さん(高畑淳子)親子

パイロットになる夢とお父ちゃんお母ちゃん

 舞ちゃん(福原遥)、遂にお父ちゃん(高橋克典)とお母ちゃん(永作博美)に新たな夢を打ち明けました。今までの夢(飛行機を作ってお父ちゃんのネジをつかう)よりも旅客機のパイロットになりたいこと、航空学校に入りたいこと(親元を離れることになる)、そのために大学を辞めたいこと、伝えにくい要素が多く…。舞ちゃんは「強くなりたい」という気持から人力飛行機のパイロットに挑戦したそうで、その挑戦がまた新たな夢への扉を開いたことを伝えます。しかし、お母ちゃんは首を縦に振りません。せめて大学を卒業してからにして欲しい。舞ちゃんも負けません「お母ちゃんかて、大学中退してお父ちゃんと結婚したやろ」。ぐうの音もでない反撃。

 おかあちゃんが2度ほど口にしたフレーズが気になりました。「舞は、まだ人のいてへん道をがむしゃらに切り開いていくタイプやあらへん。」そう、母親って産まれた瞬間から子供を注意深く見てるんですよね。赤ちゃんは放っておけば死んでしまう生き物ですから。だんだん子供が大きくなって出来ることが増えてくると、顔色を見て健康の心配をしたり、遊んでる姿を見て、どんなことが好きで、どんなことが得意なのかだったり、その様子を見て買うおもちゃを決めたり習い事を決めたり。自分が見てきたこと、肌で感じたことが全てだったはず。舞ちゃんが大学で航空工学科を専攻した時も、「舞は手先が器用やから、飛行機を作るのに向いてる」と納得できた。幼少期の場面で模型飛行機を作っている姿を見てきたので納得出来ました。(あのシーンステキでした。)ただ、今回は違いました。お母ちゃんが見てきた舞ちゃんとパイロットという職業が結びつかなかった。自分が見てないところで夢を見つけてしまったので、辻褄が合わないんですよね。大いなる「親としての矛盾」なわけです。そりゃあ一度は反対もしてみます。

 その後、お母ちゃんのめぐみさんとお父ちゃんの浩太さんは、五島にいる舞ちゃんを迎えに行き、舞ちゃんの気持ちを聞き、お母ちゃんの気持ちも伝え、舞ちゃんの夢を応援する覚悟を決めました。舞ちゃんの気持ちを聞いて、お母ちゃんが感じた矛盾が解消されたのでしょうか。「わかった、舞がそこまで考えてるんやったらやってみ」。五島という場所は若かりしめぐみさんが大学を辞めて、浩太さんと結婚したいと言い、ばんばに反対され、喧嘩別れのようになった所です。側から見ると、めぐみさんは、この場所で、若かりし頃ばんばにの言葉をかけて欲しかったであろう言葉を娘に伝えている。とても意味のある場面でした。

祥子ばんばとめぐみさんの心の雪解け

 20年前、舞の母めぐみさん(永作博美)が「親の矛盾」をつきつけたのが、母である祥子ばんば(高畑淳子)でした。めぐみさんは小さい頃から成績優秀で、教師になると言って大学に入ったものの、大阪の町工場の後継である男(舞の父 浩太さん)を連れてきて結婚すると言います。しかし、ばんばは納得できない。ばんばが見てきためぐみさんと町工場に嫁ぐ姿に矛盾があった。めぐみの夢を壊す浩太さんを許せないし、工場のおかみさんがめぐみさんに務まるとは思えなかった。めぐみさんが嫁いだ後も、めぐみさんが帰ってきたら職があった方がいいとジャム作りを始めるほど、自分が見てきためぐみさんに自信があった。

 浩太さん(高橋克典)がばんば祥子さんに、めぐみさんを五島から連れ出して祥子さんに寂しい思いをさせてしまったことを謝罪した時に返した言葉が印象的で。「(すぐに逃げ出して帰ってくるとおもったけど)あんこは帰ってこんかった。そっが淋しくて嬉しかった」ばんばの場合は、矛盾を解消するには待つしかなかった。唯一の連絡は、浩太さんが送ってくれた年賀状だけ。孫が二人も生まれて幸せに暮らしているらしい。それが10年以上。そして、舞ちゃんが小学3年生の時に五島にしばらく滞在したことでようやく交流が復活した。だいぶ時間がかかった。どれだけ遠くに住む娘に思いを馳せ、辛い思いをしたんだろう。めぐみさんには浩太さんがいたが、祥子さんは夫を亡くしていた。孤独と戦い、年に一度の年賀状で喜びを感じる10年。

 話を前述のめぐみさん浩太さんと舞ちゃんの会話に戻します。その会話を伏し目がちに耳を傾けていたばんば祥子さん。めぐみさん「あんた(舞ちゃん)が男社会で道を切り開いていくタイプに思われへんねん。苦労するのが目に見えてる」に対し、舞ちゃん「せやから挑戦したいねん」と挑戦したい理由を続けるところで、祥子さんは少し驚いたようにまいちゃんに目をやります。内気だった舞ちゃんが自分の考えをはっきり言えたことにビックリしたのか。

 その答えは続く祥子さんとめぐみさん二人の場面で。祥子ばんばはめぐみさんに言いました。「舞は、自分の気持ちばしっかり言える子になったたいねぇ」そして続けた。「私も聞いてやれば良かった。あん時、めぐみの話ばちゃんと聞いてやれば良かった。すまんかったねぇ。」「めぐみは大阪でちゃんと幸せになったたいねぇ」何十年越しに気づいた、矛盾の解消方法。ただ、めぐみさんの話を膝を詰めて聞いてあげるだけで良かった。このシーンは何度見返しても涙が出てしまいます。

 話は脱線しますが、高畑淳子さんのばんばが第7週すごく良かったです。動きの演技としゃべりの演技のバランスがすごく心地よかったです。

 話を戻して。いつか、うちの娘からも親としての矛盾を突きつけられる未来が来るのか?いや、そんな矛盾を突きつけられることなんてないのかもしれない。が、もし矛盾を突きつけられたら、こどもの成長の証なのではないか、と思うに至りました。正直、そんな将来を楽しみには思えないけれど、心の準備の10分の1くらいはできたかな?

 第8週からは嶋田うれ葉さんが脚本を担当されるようです。朝ドラではエールの脚本もご担当された方とのこと。私はエール見てなかったので、まっさらな気持ちで楽しみたいと思います。

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