エルピス〜希望、あるいは災い〜(2022)前半戦レビュー|1-6話

出典 https://www.ktv.jp/elpis/

佐野プロデューサーが6話までが前半戦と言っていたので、ここまでで一度レビュー。

製作陣

フジテレビ系関西テレビ制作。プロデューサー佐野亜裕美さん(カルテット、大豆田とわ子の方)と脚本渡辺あやさん(カーネーション、ジョゼと虎と魚たち)の二人が長年温めてきた作品。長澤まさみさん主役で当て書きで脚本が完成していたものの、内容が内容だけに採用とならず、佐野さんがTBSを退社後、今回関西テレビでドラマ化実現。演出は大根仁(モテキ、いだてん等)他。

おおまかなあらすじ

 原作を持たず完全オリジナルでフィクションであるが、様々な実際起きた事件を参考文献にあげており、現代社会を投影した半分ノンフィクション作品と思って良さそう。

 舞台は2018年大洋テレビのバラエティ番組を担当するアナウンサー浅川恵那(長澤まさみ)と新人ディレクター岸本(眞栄田郷敦)が中心人物。二人が追う事件は 12年以上前、2002-2006年に神奈川県八飛市で起きた連続殺人事件で逮捕された松本は、2012年の最高裁で死刑囚となりいつ執行されてもおかしくない状況。

 浅川と岸本が事件を追うきっかけとなったのは、番組のヘアメイク担当のチェリー(三浦透子)。実はチェリーは死刑囚松本良夫(片岡正二郎)が逮捕された当時、両親の虐待から逃れ松本の家に匿われ生活していた(当時中学二年生だった)。彼女の存在(=松本がロリコンだと思われた)が報道されたことがきっかけとなり女子高校生の連続殺人事件の逮捕と繋がったこと、松本死刑囚の無罪を確信していることから、事件の真相解明を岸本に依頼。岸本は、チェリーに弱みを握られ脅されていることから受け入れざるを得ず、過去にニュース番組で冤罪を取材していた浅川に協力を依頼…といった流れである。そんな中、同じ八飛市で新たに中2年女子が行方不明となった。

 ここからは、私が面白いと思った点を中心にレビューしていきます。

 この事件、既にある資料だけみても不可解なことが多く、松本死刑囚の担当弁護人含め、それに気づいている人物が何人かはいる。にも関わらず、なかなか事件解明が進まないまま既に最後の事件発生から12年が経過している。そして、メイン二人浅川と岸本の足並みがなかなか揃わないところが面白いところ。足並みが揃わない原因として描かれているのは大きく二つ。一つは、二人が所属する大企業である大洋テレビという組織の障壁。もう一つは、政治による圧力による障壁。二つの障壁を打破するのが主人公である浅川と岸本であるが、ある程度重いものを背負った二人だからこそ、打破できた。逆にいうと、そこまで重いものを背負った者でなければ打破できない現実を描いた作品というところに、筆者は魅力を感じている。以下に、二人の戦いをまとめている。

大企業(大洋テレビ)という組織の障壁と浅川の戦い

浅川と岸本が担当するのは金曜日深夜の情報バラエティ番組で、本来であればテレビ局内の棲み分けで言うと報道部門が担当すべき題材となる。そのため、面倒を起こしたくない二人の上司達。チーフプロデューサーやらプロデューサーやら上司っぽくて色々言い出す人(山崎さんとか)が多いのも面白いところ。第3話では二人が被害者遺族や担当刑事のインタビューを抑えたVTRの放送を持ちかけた際にも、プロデューサーである名越(近藤公園)は面白いVTRだと認めながらもわざわざ上位上司であるバラエティ局長に相談に行ったが放送不適切との判断でで揉み消された。実際は局長に相談さえも行っておらず、プロデューサー自らがお蔵入りにしてしまったということがあった。特に日本では、マネージャーと現場間で志に歪みがあることが多い。マネージャーになると、組織全体のことが見えるが故に、棲み分けやら自分の立場やらを考えることが中心となってしまい、本来の役割を見失うことが多い。この点をリアルに描いた点がとても面白いと感じた。

 その後、第4話で浅川はプロデューサーの制止を振り切ってゲリラ的に放送してしまったのだが、その場面がなかなか痛快だった。上司の制止を振り切れたのは浅川の社内での背景にあり、第一話で描かれている。浅川は元々報道番組でニュースを読んでいたが、報道局政治部の斉藤(鈴木亮平)との交際が報道されたことにより、バラエティに左遷されてしまった。それを機に長年飲み込み続けてきた本心やら真実で心が一杯になってしまい、不眠症、拒食症と度々起こる吐き気と戦いながら生活している。今回の事件と松本の死刑判決についても、自分がかつてニュース番組で報じたにも関わらず、自分の認識から外れていた。浅川は今までの自分から脱するために、この事件を追っているようだった。

 第1話で浅川の以下のセリフが印象的だった。

“おかしいとおもうものを飲み込んじゃダメなんだよ。…. 中略 …..

私はもう飲み込めない。飲み込みたくないものはのみこまない。でないともう死ぬし、私。”

食事を摂れない浅川は、自分の行動が死に直結している。生きるために必死である。そういう状況の人物でないと、無能なマネージャー陣の制止を振り払い正しい仕事をするのが難しいという現実に、リアリティと驚きを感じる。

政治家の圧力による障壁と岸本の戦い

結局浅川のゲリラ放送は評判が良く、バラエティ局長の薦めもあり第2回の放送が叶った。ここでは、逮捕の決め手となった松本の目撃情報の信憑性の低さが報じられた。が、そのVTR放送後すぐに再審請求の棄却が決定された。担当弁護士の木村により再審請求が出されていたようだ(第1話の浅川斎藤岸本のランチミーティングにて)。岸本の母(弁護士)によると、請求が出されて棄却決定までに10年かかることもある程で、このタイミングの棄却決定は、浅川らの放送が原因である可能性が否定できない状況のよう。これは、第一話から見ていると、現副総理である大門雄二(山路和弘)による力の波紋が再審請求の棄却に繋がっていると予想できる。この大門という男は斎藤(浅川の元恋人で大洋テレビ報道局キャップ)を可愛がっており、深い繋がりがあるらしい。斎藤はこの事件を追うことを止めるように浅川に勧めている。

 再審請求棄却をきっかけに、会社としても事件の取材中止が決定(理由は伝えられず)。浅川はモチベーション低下、そして戦線離脱。斎藤と浅川の関係も復活。通常であればここで詰みの状態であるが、今回は岸本が戦う。

 岸本にも闇があった。彼は高校時代親友をいじめを苦にした自殺で亡くしている。岸本は母親に教師への忠告をお願いするが、いじめの主犯が校内の有力者の息子であったために握りつぶしてしまった。事件を機に自分の母親の言いなりになって生きてきたこれまでの人生に向き合い始めた岸本は、第4話で番組のチーフプロデューサーである村井と酒の席を共にし、いじめ事件とも初めて正面から向き合うこととなった。その結果、今度は岸本が摂食障害に陥り、闇落ち状態になりさらには覚醒状態になり、一人でがむしゃらに事件解明に取り組む。結果、松本死刑囚の目撃証言をした男の元妻のインタビューに成功し、目撃情報が虚偽であることを証明。

2度目の圧力、そして動けなくなる個人

岸本のスクープは、彼らが担当する情報バラエティ番組で放送された(6話)。視聴者の反響は大きく、他局も後追い取材を始めた。しかし、放送の影響で偽証言をした男が逃亡してしまった。これが大きな問題となり、担当番組も終了を迎え、チーフプロデューサーの村井と岸本は別部門に左遷、浅川は報道局の夜のニュース番組に復帰することとなり、事件を追うことが出来なくなった。浅川は、事件解明への気持ちがあるものの、毎日の番組出演時間を中心に生活が引きずられて思うように動けない状況に。結局、時間が出来た岸本のみが動くという状況。

 ここで驚くべきは、死刑囚の死刑がいつ執行されてもおかしくない状況でこの事件の解明が暗礁に乗り上げた状況が許されていること。本来であれば警察が動くべきところを、政治の圧力により動かない。三権分立が機能しない状況が先進国と呼ばれて久しい日本で起きているということ。忘れ去られるべきではない事象が置き去りにされている。

 また、大きい抑圧が個人に及ぼす影響もリアリティがある。大門副総理の圧力がかかっている大洋テレビの人事異動により、浅川の生活が激変し、仕事に時間を取られて事件を追えなくなってしまった。”おかしいとおもうものを飲み込んだらいけない、でないと死ぬ”とまで言っていた浅川でさえ動けなくなる状況は、自分の意思ではどうしようもない渦の中にいる、としか思えない。一度渦の中に入ると、そこから出ることを許さない。松本死刑囚の担当弁護士も渦の中にいる一人なのかもしれない。第2話で言っていた。刑事事件をやっていると数多く担当しないとやっていけない。たこ焼き屋みたいなものだ、と。7話以降の後半戦では、浅川・岸本両氏を何が渦から引っ張り出して、事件解明に導くのかに注目して見ていきたい所存です。

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